【BIRDER連載試し読み】鳥見 ながら 生き物さがし

【BIRDER連載試し読み】鳥見 ながら 生き物さがし

#01 春の林で足元のチョウを楽しむ(2025年4月号掲載)
文・写真 ◉ ひたき
*本連載の写真は紙版であればスマートフォン・タブレット専用アプリ「文一AR」で、電子書籍版ではすべてカラー写真が見られます。

春の林にはたくさんの生き物
 桜が咲いてからおよそ1か月間、葉が芽吹きはじめた明るい林にはセンダイムシクイやオオルリ、キビタキ[写真1]のさえずりが響きわたる。鳥を探そうと、どうしても林の上のほうに目がいきがちだが、足元では春ならではの生き物たちをそこかしこで見つけることができるので、ぜひ探してみてほしい。今回はその中でも、美しいチョウたちを紹介しよう。

[写真1]芽吹いたばかりの明るい林で、鈴を転がすようにさえずっていたキビタキ

春に見られるチョウたち
 「そろそろ出ているかな……」、そう思いながら毎年のように春の暖かい日はフィールドに出る。林の奥でさえずっているキビタキの鳴き声を聞きながら、山の頂上へ向かう。途中、陽だまりになった空間を歩いているとき、視界の隅をクリーム色の小さなチョウが横切った。ギフチョウ[写真2]だ! 時折、コバノミツバツツジなどの蜜を吸うが、元気に飛び続けていることが多い。ギフチョウが生息するのは幼虫の食物となるカンアオイ類、そして成虫が蜜を吸うカタクリやスミレ類が豊富な本州の里山、もしくはブナ林がある、標高1000m以上の山ろくであることが多い。ちなみに北海道を含む主に北日本ではヒメギフチョウが生息する。
 また別の日、山の林道を歩きながらオオルリを探しに行く。日当たりのよい斜面を歩いていると、小さいガのような昆虫が飛んで足元の枯れ草に止まった。コツバメ[写真3]という小さなチョウだ。遠目に見ると茶色い地味なチョウかもしれないが、よく観察するといぶし銀の美しさがわかる。飛ぶ瞬間にしか見えない、翅の内側はつやのあるネイビーブルーだ。小さくて、ツバメのような色彩ですばやく飛ぶことが名前の由来と思う。止まっているときによく見ると、体全体がギフチョウと同様にふさふさの毛で覆われていることがわかるだろう。春にのみ現れる昆虫ではよく見られる特徴だ。
 どちらのチョウも意識しないと見過ごしてしまうかもしれないが、いくつかのポイントを意識してみると案外出会えるものだ。
 ギフチョウは決まったルートを何回も飛ぶことが多く、こうしたルートを「蝶道(ちょうどう)」と呼ぶ。蝶道で待っていれば、飛んでいってしまってもしばらくすればまたやってくる。小形ですばやく飛翔するため、気づかずに通りすぎていく登山者も多いが、意識して探して見つけだし、じっくり観察できたときの感動はひとしおだ。

美しき「春の女神」ギフチョウ

[写真2]舞い踊るように飛び回った後に、ぺたりと地面で日光浴をしていた

ここに注目!
・アゲハチョウに似ている、ひと回り小さなトラ柄のチョウ
・林内の開けた場所か山頂で、よく晴れた日の午前中に探してみよう
・花の蜜を吸う時間はほんのわずか、スキップするように忙しく飛ぶ

幻光きらめく「春の忍者」コツバメ

[写真3]翅を開いて止まることはなく、どこか頑固だが力強いチョウだ
翅を開いたところ

ここに注目!
・小さなシジミチョウの仲間で、瞬間移動のような速さで飛ぶ
・枯れ葉色で目立たないが、日光によって鈍く銅色に輝く
・アセビやツツジの仲間が多い、山間部の林道や雑木林で見られる

Profile
ひたき
大阪府生まれ。探鳥地で暇になると鳥以外を探してしまうバーダー。現在は山陽地方を中心に、鳥見を楽しむことはもちろん、地域ごとに特色のある昆虫や植物などを調べて探すこともライフワークにしている。