【BIRDER連載試し読み】キジの棲むアジアの秘境を訪ねて

#01 ヤマドリ(日本)(2025年1月号掲載)
文・写真 ◉ 川辺 洪

日本固有種にして、キジの仲間でも屈指の美しさを誇るのがヤマドリだ。5亜種がおり、それぞれ赤色味や尾羽のパターンなどに違いがある。
今までのヤマドリとの出会いの中で最も印象に残っているのは、春に観察した、雌を連れていた雄の行動であった。ふだんは人を見るなりそそくさと行ってしまうが、このとき雌を連れて林道に出てきた雄は、まるで別人(鳥)のように堂々とした振る舞いだった。
まずやぶから開けた林道の空間に出てくると、尾羽をピンとまっすぐ空に向けて立て、を充血させ、全身の羽毛を逆立たせた。次に、採食する雌の隣に寄り添ったかと思うと、尾羽を広げて体を雌のほうに傾けるという求愛行動の一つ、ラテラルディスプレイ(Lateral Display)を行ったのだ(亜種ウスアカヤマドリの写真参照)。その後も見張りをしているかのように見えるポーズを織り交ぜながら、雌をエスコートして悠々と林道を横断していった。最後に、やぶの中でなわばり誇示のほろ打ちを何度か行い、奥へと姿を消した。なんと勇ましく紳士的な雄なのだろうか……!
その一連の所作があまりにも気高く、まるでベテラン役者の登壇した歌舞伎公演を観劇しているような気分になった。思えばこの瞬間が、私がキジ類、特にその求愛行動を追い求めるきっかけになったのかもしれない。




Profile
川辺 洪(かわべ・こう)
1987年、東京都生まれ。バーダー。幼少のころ、今は亡き父の影響で鳥観察を始める。社会人になってからは国内のみならず海外へ赴きライフリストを数える。近年は、キジ類を求めてアジアの秘境を駆ける。Web▶BirdingHolic(https://www.birdingholic.com/)