【BIRDER連載試し読み】キジの棲むアジアの秘境を訪ねて

【BIRDER連載試し読み】キジの棲むアジアの秘境を訪ねて

#01 ヤマドリ(日本)(2025年1月号掲載)
文・写真  ◉ 川辺 洪

亜種ヤマドリ(S.s.scintillans)。スギ林と雑木林が混合する沢沿いの林内で若芽をついばみ採食していた。亜種小名のscintillansは「きらめく、輝く」という意味で、光に当たると燦然(さんぜん)と輝くヤマドリの金属的な赤銅色の羽毛に由来する 2023年9月

日本固有種にして、キジの仲間でも屈指の美しさを誇るのがヤマドリだ。5亜種がおり、それぞれ赤色味や尾羽のパターンなどに違いがある。

今までのヤマドリとの出会いの中で最も印象に残っているのは、春に観察した、雌を連れていた雄の行動であった。ふだんは人を見るなりそそくさと行ってしまうが、このとき雌を連れて林道に出てきた雄は、まるで別人(鳥)のように堂々とした振る舞いだった。

まずやぶから開けた林道の空間に出てくると、尾羽をピンとまっすぐ空に向けて立て、を充血させ、全身の羽毛を逆立たせた。次に、採食する雌の隣に寄り添ったかと思うと、尾羽を広げて体を雌のほうに傾けるという求愛行動の一つ、ラテラルディスプレイ(Lateral Display)を行ったのだ(亜種ウスアカヤマドリの写真参照)。その後も見張りをしているかのように見えるポーズを織り交ぜながら、雌をエスコートして悠々と林道を横断していった。最後に、やぶの中でなわばり誇示のほろ打ちを何度か行い、奥へと姿を消した。なんと勇ましく紳士的な雄なのだろうか……!

その一連の所作があまりにも気高く、まるでベテラン役者の登壇した歌舞伎公演を観劇しているような気分になった。思えばこの瞬間が、私がキジ類、特にその求愛行動を追い求めるきっかけになったのかもしれない。

亜種ウスアカヤマドリ(S.s.subrufus)。羽毛の色は亜種ヤマドリよりも赤銅色味が強く、黄金色の金属光沢を帯びるため、まばゆいきらめきがよりいっそう強く見えた 2018年3月
亜種コシジロヤマドリ(S.s.ijimae)。亜種小名は日本鳥学会初代会頭・飯島 魁氏に由来する。腰から上尾筒の羽縁にある幅広い白色の集合によって腰全体が白く見えた 2018年10月 
亜種アカヤマドリ(S.s.soemmerringii)。亜種小名はドイツの解剖学者に由来する。赤銅色が濃く、光の当たり具合によっては紫色味を帯びる装いは実に妖艶(ようえん)だ 2022年10月
亜種シコクヤマドリ(S.s.intermedius)。急こう配の竹林で出会い頭のシーン。尾羽の節の灰白色部と黒褐色の斑点がよく目立った 2019年4月

Profile

川辺 洪(かわべ・こう)
1987年、東京都生まれ。バーダー。幼少のころ、今は亡き父の影響で鳥観察を始める。社会人になってからは国内のみならず海外へ赴きライフリストを数える。近年は、キジ類を求めてアジアの秘境を駆ける。Web▶BirdingHolic(https://www.birdingholic.com/)