AI生成画像は野鳥観察を変えてしまうのか?(後編)

AI生成画像は野鳥観察を変えてしまうのか?(後編)
【図5】 フジイロハチドリ、2023年12月、エクアドル。だ円(点線)で示したのが、AIソフトウェアによって細い枝を除去した箇所

前編で紹介した「無の状態から鳥の画像を生み出す」ような、AI(人工知能)による生成を使う機会は少ないかもしれない。でも“ちょっとした”画像加工なら使う機会もあるだろう。そこにもAIは使われている。どこまでを“現実”と認めるか、議論は始まったばかりだ。


文・写真:スティーブン・メンジー(Menzie, Stephen)
翻訳:平岡 考

※本稿はBIRDER2024年5月号に掲載された同名記事の再掲載であり、2024年7月に英国の野鳥雑誌「British Birds」の「BB eye」のコーナーに掲載された下記記事の翻訳。本稿で掲載する画像は【図6】①を除き、すべてAIを使って生成、加工、あるいは編集されたものである。
・Menzie, Stephen 2024. AI-generated images and their impact on birding. British Birds 117: 346–352.

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わずかだが重大な変更
 今のところ、AI(Artificial Intelligence、人工知能)で生成された画像は、有名探鳥地にいる珍鳥の、十分にそれらしい写真を生成するレベルにはまだ達していない。でも、私たちがすぐに「見るからにおかしい」と気づかないような変更を加えられるまでにはなっている。
 Adobeの画像編集ソフト、Photoshopの特に有用な機能の一つが「生成塗りつぶし」(Generative Fill)だ。この機能は、取り除きたい枝があったり、鳥の止まっている場所に見栄えを損なうゴミなどがあったりするときに非常に役立つ。もちろん、こういった加工は昔から行われてきたものだ。以前のPhotoshopでも「コピースタンプツール」を辛抱強く使うことで同じことはできた。しかし今は、画像からすべてのじゃまなものを取り除くのにたった数秒しかかからない。このことは道徳的にはグレーゾーンとなってくるだろう。【図5】では、AIの編集ツールを使って、小さいけれども目障りな2本の枝を取り除いた。この程度の加工は大半の人が、まったく問題ないとするのではないだろうか。

【図6】クロジョウビタキの雄、2023年11月、アゼルバイジャン。①はもとの画像、②はAIで加工した画像。Photoshopに対して、手前の岩を除去して鳥の体の後半を見せるように指示が出された。クロジョウビタキの左に見える雛は、AIソフトが思いがけず勝手に追加してきたもの

 また、【図6】の②は写っているクロジョウビタキの下半身が見えるように、手前の岩を除去する指示を出した(①は元画像)。AIソフトは目を見張るようなよい仕事をして、岩そのものは完璧に修正されており、鳥についても、鳥を知らない人が見るのなら問題ない仕上がりだ。ただし、加工後の下尾筒がクロジョウビタキのものではないことには問題がある。例えばあなたがクロジョウビタキの下尾筒の赤色にどのくらいの変異があるかを知ろうと、インターネット上の画像を見ているとする。あなたはこの画像を見つけ、「ありゃ、こんな個体がいるのか。クロジョウビタキで下尾筒に赤色がないのはどのくらい普通にいるんだろう? これはたった1羽の羽色異常なのか、あるいは地理的な個体群とか、未記載の亜種なんだろうか?」などと考えてしまうに違いない。多くの撮影者はこの種のちょっとした「整理整頓」についてわざわざ断らない(それがちょっとした枝や1、2枚の葉であれば)。でもこうしたことがあるために、写真全体が本当に、まぎれもない現実だけを伝えているかどうかがわからなくなってしまう。
 もちろん、【図6】が加工されたものであることを示す、大きな手がかりが1つある。理由は不明だが、AIは、外見はそれなりにまともなものの、まるっきり場違いな雛をクロジョウビタキの左に追加してきたのだ。こういったおかしな結果はしばしば起こる。もちろんこのケースで余分な雛を画像から除去するのにはほんの数秒しかかからないだろう。しかしここでは、しばしば見られるAIの思いがけない挙動を見せるために(それとおもしろいので)残してある。

【図7】 ヨーロッパハチクマ。スウェーデン、ファルステボ。点線の左側はPhotoshopのAIが生成したもの。③では初列風切が1枚多くなっており、東アジアのハチクマのように、翼角より先が幅広くなっている

 類似の例として、今ではAIツールを使って、鳥が写真の枠から少し外れてしまっている場合に、足りない部分を補うこともできる。AIを使って画像やその一部を生成させる指示を出すと、Photoshopは必ず3つの選択肢を提示してくる。【図7】の①〜③は、右翼の先端が切れるように筆者がわざわざトリミングしたヨーロッパハチクマの写真を、鳥全体の画像にするように指示した結果だ。Photoshopが提示してきた3つの候補を、1枚ずつ個別にひと目見るだけだと、いずれも本物らしく見える。実際、AIが実物そっくりの画像を作り出す能力には本当にびっくりさせられる。とはいえ、生成された右翼を現実の左翼(=加工していない翼)と比較すると、実際の翼との違いはすぐわかる。①〜③の中では、①が最も本物らしいといってよいだろうが、初列風切は多少おかしな、前向きに張り出したような保ち方になっている。②は初列風切の下面の横斑が、実際よりもずっと明瞭になっている。さらに③は、初列風切が指状に分かれる枚数が識別の重要なポイントであることを知っていると気になるだろうが、AIは指状に分かれた初列風切を1枚多く描いた。このため、③の個体は翼の外側半分が幅広く見え、日本を含むユーラシアの東側に分布するハチクマを思い起こさせる。

【図8】 「火山を背景にして、溶岩の海岸にいる、黒いミヤコドリ類」。AIのおかげで絶滅したカナリークロミヤコドリが 復活? この画像全体が、PhotoshopのAIで生成された

今後の課題
 近年急増してきたさまざまなAIツールと同様、野鳥観察におけるAI生成画像が将来どうなるかは、我々がそれをどう使うかにかかっているだろう。AIで生成、あるいは加工された画像の質と精密さは、この1、2年で爆発的に向上してきており、その速度が衰える様子はなさそうだ。
 本稿で紹介した画像はすべてAIのみで作ったものだが(【図6】①を除く)、AIと従来の画像編集技術を併用することで、見破るのがいっそう難しい写真を生み出すことが遠からず可能になるだろう。そうなれば、例えばAIで生成した鳥を実在の場所の中にはめこむことも、苦もなくできるようになりそうだ。偽物の画像と実際の写真とを区別することが、画像の質とスタイルだけからでは不可能になる日はもう目の前に来ている。実際の参考資料が手元にない状態で、特定の種の鳥を実在の場所の景色の中に配置することが簡単にできるようになるには、まだもう少し時間がかかると筆者は考えている。しかし、今後必ず—「遅かれ早かれ」という表現がのんびりしたものと感じられるほど早い時期に、そういったことができるようになるだろう。
 もしこの技術が悪意をもって使われた場合(つまり、観察記録のねつ造や、実在しない種の画像を創造して一般人を誤解させるなど)、それは大きな問題になる。どの画像を信じるべきか、どうやって知ればよいのだろう? どれが実在の鳥でどれがAIで生成されたものか、我々はどうやって判断すればよいのだろう? 我々人類は、1〜2文程度の簡単な指示【図8】で、自分たちが失った絶滅種を(再度)生成することができると知って、実在の自然はどうでもよいと考えるようになるのだろうか?

 現在でも、インパクトに欠け、かわいさも劣り、見応えの乏しい実在の鳥よりも、AIが生成したり、AIで加工された画像に多くの「いいね」やコメントが集まることは、インターネット上でよく見る光景だ。さらにこれと裏返しの例として、いくつかの非常に派手な鳥、例えばチャカザリハチドリの実際の写真に対して、「AIで生成した」と考えて非難するコメントがついているのも見たことがある。何が信じられ、何が信じられないかの境界線はすでに不明瞭になってきている。
 多くの人は、AIを使って何もないところから画像を生成するのは、誤解を生む可能性があるとして賛成しないかもしれないが、実際の写真に小さな修正を加えることはグレーゾーンに属すると考えるのではないだろうか。また、多くの撮影者にとっては、ささやかな修正によって細かな不正確が生じるとしても、見て美しい写真を得ることの魅力が勝るのではないかと思う。鳥の翼の前を横切る枝が修正によって消されたときに、初列風切の間隔が正確かどうかについて気にする撮影者はほとんどいないだろうし、見る人に至っては気にする人はさらに少ないだろう。一方、画像を研究目的で利用する人たちにとっては、そういった細かい点の不正確さが致命的な影響をもたらす可能性がある。
 この問題に対処するための共通の出発点として筆者が提案したいのは、画像を修正した場合には撮影者がそのことを公表することだ。翼端はAIに生成させたのか? 尾羽の前からじゃまな葉を消去したのか? —こういったことを公表すれば、少なくとも、どの写真が実際の世界を忠実に写し取っているかについて、信頼を失うことなく、AI編集ツールの驚くべき能力の助けを借りて、びっくりするような画像を作り続けることができるだろう。