第1回 鳥体各部の名称

第1回 鳥体各部の名称

野外で見た鳥について、それが何という種であるか? オスかメスか? 幼鳥か成鳥か? あるいは亜種に分けられている種では、いったい何という亜種*1なのか? これらを可能な限り正確に識別するためには、見た鳥の形や大きさ、色や模様、動作や鳴き声はもちろん、どこで見つけられたのか? 生息環境はどうか? などと総合的な判断が必要だ。

この連載では各種の鳥の正確な識別のために、特に鳥の形態の写真やイラストで示し、種(および亜種)の特徴や性と年齢*2の識別ポイントを紹介しよう。また一般のバードウォッチャーだけでなく、鳥を手にする機会のあるバンダー*3にも役立つものにしたい。各種に触れるのは次回以降とし、今回は正確な識別のための基礎知識として、鳥体各部の名称について説明することにする。これは次回以後の連載の理解に必要である。次回からは分類順にこだわらず各種の鳥をとりあげていく姿勢である。

注)
• *1 亜種:地理的品種。
• *2 年齢:多くの鳥、特にスズメ目では1歳未満または1歳以上しかわからない。
• *3 バンダー:鳥類標識調査従事者。


鳥類の識別に役立つもの

現在、日本で使用されている鳥体各部の名称は日本鳥学会選定によるもの(内田, 1912)が基礎となっている。その後、内田(1925, 1949)、黒田(1933)、山階(1934)等によりわずかに改定・追加され、さらに黒田(1950, 1955, 1962)がいくつかの新語を提示している。鳥体各部の名称は鳥類の形態を正確に記述するうえに必要であり、鳥類の識別に役立つものである。

ここでは鳥体と翼の各部の名称をそれぞれ図を示し、茂田・佐野(1986)を参考に主に翼と尾について解説する。翼と尾の構造を理解し、鳥の姿勢によって、あるいは鳥が翼と尾を開いたり閉じたりしたときに、翼と尾の各部分がどのように見えるかを知ることが、鳥を正確に識別するのに大切である。

翼を構成する羽毛

翼を構成する羽毛は風切(かざきり)、雨覆(あまおおい)、および小翼羽(しょうよくう)からなり、風切は初列風切と次列風切および三列風切に分けられる。三列風切は種によっては、次列風切との区別は明確ではない。

写真を見て,どれがどの羽か言い当ててみよう

ハクキレイのメス,第1回冬羽(1990年2月25日微影)。初列風切が9枚,次列風切が6枚,三列風切が3枚,小翼羽が3枚,そして手根雨覆がある。それぞれどの羽がどこにあるか探してみよう​
標識調森で捕獲されたミヤマホオジロのオス,第1回冬羽(1990年10月16日)。初列風切,次列風切, 三列風切,初列雨覆,小翼羽,小 雨覆中雨覆,大雨覆,中央尾羽,外側尾羽はどこにあるだろう。

手根風切を探してみよう

工ゾライチョウのメス成烏。初列 風切と次列風切の境にある手根風切を示す。Johnsgard(1983)に よれば本種は初列風切第1羽の先端の淡色部の幅(幼鳥:4mm以上,成鳥:2mm以下)と初列風切第9羽の外弁の淡色斑の数(幼鳥:8~11個,成鳥:8個以下)により年齢がわかる。写真の個体は淡色部の幅:約1mm,淡色斑の数:8個である

上膊風切を知ろう

オカヨシガモのオス,第1回冬羽。上膊風切と上膊雨覆を示す。

初列風切とは

初列風切は掌骨(しょうこつ)と第2指に付着し、3〜16枚まで種により多様であるが、多くは9〜11枚である。初列風切は内側から外側に向かって順に第1羽,第2羽,第3羽……と呼ぶ。これにより初列風切の枚数が異なったり、最初列風切がきわめて小さい場合(remicleと称す)にも各初列風切を同一名称で呼ぶことができる。Remicleは初列風切ではなく、雨覆とする説もある。あとで述べるように初列風切と初列雨覆は同数とは限らない。

次列風切とは

次列風切は尺骨(しゃっこつ)に付着し、その枚数は6〜40枚まで多様である。次列風切は外側から内側に向かって第1羽,第2羽,第3羽……とし、三列風切も続けて呼ぶ。次列風切第5羽は種によりないもの(diastataxy)とあるもの(eutaxy)があり、同じ科の中に両者の種が混在することもある。これには次列風切第5羽が欠けているのではなく、雨覆が1枚多いことによる、という異論もあり、その起源については不明である。有名な化石鳥、始祖鳥(アルケオプテリクス)はeutaxyであるとされる(Tyne et al., 1976)。

なお、翼の長い非スズメ目の鳥で上膊骨(じょうはくこつ)に風切のような羽が付着するものがあり、上膊風切という。これの雨覆は上膊雨覆と呼ばれる。

雨覆とは

雨覆は風切を覆って上面と下面にあり、それぞれ上雨覆,下雨覆と総称される。初列風切部の上雨覆は、下から順に初列(大)雨覆,初列中雨覆,初列小雨覆、次列風切部は下方から順に(次列)大雨覆,中雨覆,小雨覆と呼ぶ。初列(大)雨覆は初列風切より1枚少ないことがあり、これは最初列風切(大)雨覆が非常に小さいためとされる。

同様に下雨覆は、初列风切部では下方から順に下部初列大雨覆,下部初列中雨覆,下部初列小雨覆とし、次列風切部では、下方から、下部大雨覆,下部中雨覆,下部小雨覆と称する。また単に細かく分けずに、下雨覆と呼ぶことも多い。下雨覆の内側には上膊骨に付着する腋羽があり、カモ・シギ・チドリ・タカ類で特に長く発達し、6〜9枚ある。各雨覆の羽の重なり方は、上雨覆では中雨覆が頭側や大雨覆と重なることが多い。小翼羽は第1指(親指)に付着し、2〜7(多くは3〜4)枚からなり、ない種も知られる。内側から外側に向かって第1羽,第2羽……と呼ぶ。小翼羽の基部には小翼雨覆がある。

初列風切第1羽(最内初列風切)と次列風切第1羽(最外次列風切)の間には、種によって1枚の短い風切,手根風切が1枚の手根雨覆とともにあある。スズメ目では手根風切はなく手根雨覆だけがある。またキツツキ類のように小さな手根風切だけで手根雨覆のないものもある。

尾とは

尾は尾羽とそれを覆う尾筒からなり、後者は上面の上尾筒と下面の下尾筒に分けられる。尾羽は左右対をなして生え、その枚数は種によってないものから4〜32枚まで多様で、性や年齢で枚数が異なる種もある。中央1対の尾羽を中央尾羽,そのほかの尾羽を外側尾羽,中央から外側に向かって片側ずつ第1羽,第2羽……と呼ぶ。上尾筒のうち、もっとも後方のもの(風切の大雨覆に該当)の枚数は、尾羽と同数の種,尾羽より1〜3対多い種,尾羽より1〜2対少ない種が知られる。下尾筒についてはあまり知られていないが、ほぼ同様のことが言えるだろう。

引用文献
• Johnsgard, P. A. (1983) The Grouse of the World. Univ. of Nebraska Press, Lincoln.
• 黒田長久 (1960) 鳥類. 日本の動物, 脊椎動物篇 (I): 163-330. 日本書店.
• 黒田長久 (1965) ハト. 生物学実験講座 (第6回配本). 中山書店.
• 黒田長久 (1962) 動物系統分類学 10(上) 脊椎動物 (III) 鳥類. 中山書店.
• 黒田長礼 (1933) 鳥類彩色大図鑑 第1巻. 棲息社書院.
• 茂田良光・佐野裕彦 (1986) 鳥体各部の名称. 日本鳥類標識協会誌, 1(3): 56-69.
• Tyne, J. Van, and Berger, A. J. (1976) Fundamentals of Ornithology. 2nd ed. Wiley.
• 内田清之助 (1912) 鳥学に用ひられる諸術語. 動物学雑誌, 24 (289): 624-631.
• 内田清之助 (1925) 日本鳥類図鑑 上巻. 警醒社.
• 内田清之助 (1949) 新撰日本鳥類図鑑. 創元社.
• 山階芳嶌 (1934) 日本の鳥類と生態 第1巻. 樟書房.