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心にいつも海鳥を - 『潮風に吹かれて』編


ヒヨ吉、渡りの厳しさを知る


      場所:神奈川県中郡大磯町
日付:2007年6月9日


読者の皆さん、こんにちは。BIRDER編集部のヒヨ吉です。(^_^)

嬉しいことに、海鳥識別ハンドブックが重版になりました! \(^o^)/「バードウォッチャーには海鳥は人気がない」と一般的に言われるなかで、こういうマニアックな本が重版されるのは、海鳥のファンのヒヨ吉としてはこの上ない喜びです。

購入していただいた方全員に御礼申し上げると同時に、まだお持ちでない方は、ぜひお手元に。ヒヨ吉にとっては、野鳥イラストレーター箕輪義隆さんの美しいイラストを眺めているだけで幸せになれる、そんなハンドブックです。


さてさて、今回は神奈川県中郡大磯町の照ヶ崎海岸へアオバトを観察に出かけました(写真1)。


写真1:砂利のような大磯の海岸風景。ここは日本の海水浴場発祥の地ですが、現在遊泳は禁止されています


塩水を飲みに丹沢などから飛来するアオバト(後日おまけページで公開予定です)を見るために大磯海岸にやってきたヒヨ吉でしたが、ふと海岸に目をやると、打ち上げられた黒っぽい鳥の死体を見つけました。

なんの鳥だろうと近づいてみると、なんとそれは5月に千葉県館山市洲崎で観察したハシボソミズナギドリ(以下ハシボソ)でした(写真2)。


写真2:ハシボソの死体は海岸の色に溶け込んでいて、注意していなければ見つけにくい!


これまでの連載では生きているものを観察していたので、今回不意に死体に出会ってしまったのでちょっとびっくりでした。(((・_・;))) ハシボソの繁殖地は遠く南半球のタスマニア付近。おおざっぱな計算ですが、日本から約1万kmもの距離です。せっかく日本までやってきてくれたのに、死んでしまうなんて……。(T_T)

ヒヨ吉は、鳥が渡りをするということの厳しさを目の当たりにしました。しかし、これは普段見ることのできない細部を確認できる絶好の機会でもあります。アオバトの観察はひとまず置いて、漂着したハシボソを詳しく調べてみたくなりました。ヒヨ吉、海鳥の死体観察に初挑戦!

まずは翼を広げてみました。思っていた以上に細くて長い翼です(写真3)。


写真3:両翼を石で押さえて広げています。定規などを持っていなかったので、大きさの対比物がなくて残念


この翼で大海原を飛んでいるのか……。よく似たハイイロミズナギドリ(以下ハイイロ)の可能性もあると考えましたが、海鳥識別ハンドブックにあるハイイロの特徴である下雨覆の羽軸に黒い線がなかったので、ハシボソと識別しました(写真4)。

ハシボソミズナギドリの翼の裏の色の変異について、海鳥識別ハンドブックの箕輪義隆さんのサイトに詳しい紹介がありますので、ぜひご覧ください !(^_^)


写真4:左側の翼の下面アップ。羽軸の黒線がハンドブックにあるようにはっきりとはしていません


また、ミズナギドリ類やアホウドリ類に見られる管鼻(かんび:チューブノーズとも呼ばれる、海水から塩分だけを濾しとって排出する鼻)も観察できました。図鑑でよく横向きの絵や写真は見るのですが、正面から見ると本当に「管」であることがわかります。それにしても不思議な形ですね(写真5)。


写真5:これが管鼻(A)。塩腺(塩類腺、鼻腺とも呼ばれます:B)で塩分を濾しとった後、鼻の穴から塩分濃度の濃い水を出します。嘴の先端に向かって溝がついているのは、嘴の先から濾し出した塩分濃度の濃い水を垂らすようにして、また口の中に戻らないようにするためです


よくみると足の水かきにも発見がありました。指と指の間に水かきがあるのは知っていましたが、指の間以外に、ひれのような水かきがあるのです。

以前、英国の放送局BBCが作成した「The Blue Planet」で水中に翼と足を使って潜り、魚を捕らえる映像を見たことがありましたが、この水かきの存在は初めて知りました。少しでも速く泳ぐために、進化の過程でできたのでしょうか?

BIRDER2007年7月号のバーダーインタビューで、バードカービング師の鈴木さんがバンの水かきについて触れられていますが、足の詳細は図鑑に出ていないことが多く、自分でじっくりと見るといろいろな発見があります(写真6) 。


写真6:水かきが指の縁にもついているのは、初めての発見でした


この日、海岸を約2.5km歩きましたが、その範囲で9個体のハシボソの死体を見つました。翼下面の色の濃淡のバリエーションの多さと(写真7〜10)、予想以上に漂着個体数があったことに驚きでした。


写真7

写真8

写真9
写真7〜9:ヒヨ吉が見つけた9個体のうちの3個体の翼下面・色濃淡差のバリエーション。写真では光の差などがあり色が確認しにくいですが、実際ははっきりとその差が分かるものでした


後日いろいろ資料を調べてみると、ハシボソの死体が春先に漂着することはさほど珍しくないことのようでした。また、10年に1回程度、大量に死体が流れ着くことがあるそうで、2003年は記録的な数だったそうです。

死因はほとんどが餓死!
お腹がすいて命を落とすなんて、さぞひもじい思いをしたことでしょう。。。 (;ω;`)


写真10:写真9の翼下面のアップ。ハイイロのような白っぽさでしたが、羽軸の黒線がはっきりしないのでハシボソミズナギドリです。ハイイロとハシボソを野外で見分けるのは、けっこう難しいかもしれません


今回、死体から多くを学べたことはたいへん有意義で、今後の参考にもなりましたが、やはり一人の鳥が好きな人間としては、1羽でも多く生き残ってほしいと思います。

磯海岸のアオバトなどの写真があるおまけページは、こちら

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